【裏】作曲の王道 ジャズ & ポップス・レビュー

こんな音楽知ってる?あの「作曲の王道」のプロデューサーとアーティストが、(独断と偏見に満ちた)良質な音楽情報を紹介!

ジョアン・ジルベルト / ジョアン・ジルベルト・イン・トーキョー

第18回−ジョアン・ジルベルト・イン・トーキョー / ジョアン・ジルベルト 〜エロ親父の恍惚〜

ジョアン・ジルベルト・イン・トーキョー ジョアン・ジルベルト・イン・トーキョー
ジョアン・ジルベルト (2004/02/21)
ユニバーサルミュージック

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今考えても行けなくてとても残念だったライブがある。
ジョアン・ジルベルトの2003年9月の東京公演がそれだ。

僕がジョアンを知ったのはスタン・ゲッツの「イパネマの娘」に入っているモゴモゴ言うような声の男性歌手としてで、女性歌手のほうはアストラッド・ジルベルトとしてすぐに僕のアイドルになったけれど、モゴモゴ言うほうは長い間、一体どうしてゲッツのあのアルバムの中に入っていたのか、その価値さえわからなかった。

その後、AMOROSOの「ベサメ・ムーチョ」を聞いて、「こりゃすごい歌手がいるものだ」と一気にファンになった。
トミー・リピューマがプロデュースするこのアルバムの中でもジョアンのもごもご言うような歌唱法は変わっていなかったけれど、そのもごもごぶりがエロ親父のつぶやきのように聞こえるのである。
つまり、セクシーなのだ。

その後、「声とギター」「三月の水」を聴いて、すっかりやられた。歌はエロくていいんだ。親父がエロクて何が悪い。それだけ濃い人生をあゆんできたということじゃ!

調べてみれば、この人、常人ではない。
ほとんどエキセントリック人生。

おぼっちゃん育ちなのに弁護士か医者になれという父親を嫌って家を飛び出し、リオで活躍していたコーラス・グループ、ガロータス・ダ・ルアに参加。しかしグループ行動というものができない性格で、リハーサルには遅れ、ライブも頻繁にすっぽかし、そのくせシルヴィア・テリスとの恋にうつつをぬかすなど、バンド活動などそっちのけの生活。ついにはガロータス・ダ・ルアも追い出されてしまいます。

その後生活に困って妹の住む南のジアマンチーナへ。そこで適度の湿気と密閉された空間をもつバスルームの音響が良いことに気がついた彼は、バスルームに一日中閉じこもって歌とヴィオラォンの練習に励みます。そして、新しい音とリズムの発見があった時だけ、それを家族に聞かせようとそこから出てきたそうです。こうなると奇人ですね。

自分の音楽を確立した彼はリオに向かいます。その時、時の人だったアントニオ・カルロス・ジョビンはジョアンがの素晴らしさを理解して、大物作詞家ヴィニシウス・モライス(この人、外交官でした。作詞をしたり映画を作ったりする外交官。カッコいいですね)と「想いあふれて Chega de saudade」を彼に歌わせ、静かに若者たちの間に広まって行きました。

成功した後の彼はリオの自宅からほとんど出ることはなく、気が向いたときにコンサートを行うらしく、ほとんど人前に出ない隠遁生活。CDも寡作で全部でオリジナルアルバムはスタジオ録音が11枚、ライブ録音が6枚。そのもっとも新しいものが、2003年東京でのライブ録音。
「ジョアン・ジルベルト・イン・トーキョー」
僕が行きたかったライブの実録です。

このライブ、すでに伝説になっています。

まず、会場が5時で開演が6時だったのにも関わらず、途中でアナウンスが入って、「開演時間が遅れていることをお詫び申し上げます。アーティストは、現在こちらの会場に向かっております。今しばらくお待ちください」と放送があったそうです。それを聴いて観客たちは本当にジョアンを日本で聞けるんだと拍手。彼は何度もコンサートをすっぽかしていて、本当に聞けるのか半信半疑だった観客たちは、ジョアンの遅刻に怒るのではなくてむしろ喜んだのですね。

しかしですね、会場はジョアンの要望で空調が切ってあり、ものすごく暑かったとか。こうなるとSMの世界ですね。

この来日の際、ジョアンはフリーズを起こします。今はとても有名になってしまいましたが、パシフィコ横浜の会場でジョアンは観客からの拍手のあと、ステージの上でボー然としていたというのです。心筋梗塞か、と心配する観客をよそに(彼は当時72歳でした)ボー然は20分ほど続きました。その後、ちゃんとコンサートは続行するのですが、この空白の20分は一体何だったのか、横浜に実際行った友人が言いました。

「あれは、自分の音楽を理解してくれるあまりにも態度のよい観客に感動したジョアンが、感動して恍惚となったんだよ」と。

なるほど、僕にはわかるわけです。最高の演奏を自分でも出来て、最上の観客に囲まれた恍惚。

僕がレコードディレクターになって最初のヒットアーティスト、田原俊彦君の後楽園のライブで、集まった観客が「ジュリエットの手紙」がはじまった瞬間、みんなでテープを投げて、それが球場に屋根のようにかぶさってゆっくり下りてきたときのあの感動は、忘れることが出来ません。制作者冥利、アーティスト冥利につきるというわけでしょう。
でもですね、常人ではないのは、それが20分も続くわけです。

アーティストの要望で空調が切られ、汗だく。アーティストは1時間の遅刻。そしてその演奏が最高。拍手に感動して20分も恍惚状態のアーティスト。どうです、こんな素敵なライブ、いいと思いませんか。

ちなみに、かのマイルス・デイヴィスが言ったそうです。
「ジョアン・ジルベルトは電話帳を読んでも
 美しく聞かせることができる」と。

ジョアン・ジルベルトの略歴
2000年、完全弾き語りによる『ジョアン 声とギター』を発表、
2001年度グラミー賞【ベスト・ワールド・ミュージック部門】を受賞

羽島 亨

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  1. 2006/10/16(月) 09:55:43|
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ケイ・スター / The wheel of fortune

第14回−ポップス ケイ・スター / The wheel of fortune

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映画「L.A.コンフィデンシャル」は、時代設定が1950年代で、
ブロンドの美女にはキム・ベイシンガー、
そしてまだ無名だったラッセル・クロウやガイ・ピアースたちも、
警察官として登場するサスペンス映画。

で、この映画を見ていたときに、
ぐっとぼくの心をつかんだのがこれ。

ケイ・スターのThe wheel of fortune。

スローバラードで、
たしか、ラジオから流れるのかな。

当時流行っていたスタイルの歌い方で、
ビートルズとは正反対の、
ビブラートがたくさん入ってる古い歌い方。

サビの歌詞の表現も古い。

While the wheel is turning, turning, turning
I'll be yearning, yearning
For love's precious flame

yearningって日本語に訳すと「あなたが欲しい」かな。

同じ言葉がフランク・シナトラの
ナイト・アンド・デイという曲の中にも使われている。

ザ・ビートルズくらいの時代になるとストレートにI want youと言うから、
この時代特有の「あなたが欲しい」と歌う時の古い言い回し。

でも、さ、そんな古い歌から、
ものすごいパワーを感じたのよ。

なんだろうね、妙に伝わるのよ、この人が歌う「欲しい」がさ。

ところで、これって、50年以上も昔の曲なわけ。
でも、伝わってくるのよ、
彼女の「欲しい」がさ。

映画の中でほんの一瞬聞いただけなのに。

それって、すごくない?

歌い方も、アレンジも、歌詞もチョー古い。

けど、人間は変らないから伝わってくるものは伝わってくる。

それっていいよね。

そこには人は時代を越えて分かり合えるという希望がある。

で、これはよく引用されるラインだけど、
有名なジャズミュージシャンのデューク・エリントンは、
この世には二種類の音楽しかないって言ったんだよ。

良い曲か悪い曲だけ。
新しい曲とか古い曲は存在しない。

名言だよね。

金田広志

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  1. 2006/09/23(土) 20:43:04|
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アニタ・ベイカー / Giving You The Best That I Got

第13回−ポップス アニタ・ベイカー / Giving You The Best That I Got 〜雷に打たれた感じ〜

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Anita Baker / Giving You The Best That I Got(CD)

とにかく、ぼくは彼女の声が好き。

けど、彼女の声のすばらしさを知る日本人はあまりいない。

ヴォーカルのテクニックは一流だけど、
ホイットニー・ヒューストンやマライア・キャリー
とちがって彼女はある意味地味だ。

声質がちがう。

バーンとか高くてキーンみたいな
インパクトがあるわけじゃない。
けど、あったかくて、力強くて、うつくしい。

ホイットニー・ヒューストンやマライア・キャリーが
トランペットやサックスだとしたら、
アニタ・ベイカーはオーボエとかクラリネットだ。

売り方もちがう。

最初からアダルト・コンテンポラリー・ミュージック路線で、
ポップスのような派手な売り方はしていない。

彼女を最初に見つけたのは、
アメリカに住んでいたときに、
部屋でひとりラジオを聞いていたとき。

知らない外国の土地で学生生活を始めたばかりで、
家具も揃ってなくて、電化製品といえば
小さなラジオ付のアラーム時計だけ。

そんなしょぼいラジオから、
Giving You The Best That I Gotが流れて、
彼女の声を聞いたときはやられたね。

雷に打たれた感じ。

すっげー美人を見つけた感じかな。

とにかく夢中になった。

こんな美しい声と曲がこの世に存在するんだと感動した。

けど、英語力がまだそんなにないから、
DJが何を言っているかわからないし、
歌詞だって聞き取れない。

CDを買ったのは英語がもっとわかるようになって、
ラジオでもう一回聞いて、
アーティスト名とタイトル名を聞き取れるようになってからだ。

そして、楽譜も買って、その解説を読んで、
前作Raptureでブレークしたことを知った。

また、そのアルバムからシングルカットされた曲のひとつは、
これまたぼくが大好きなNajeeというサックスプレーヤーの名曲、
Sweet Loveに歌詞を付けた曲だということも知った。

ところで、ぼくって、結構、声フェチで、
どんなに美人でも声がきれいじゃないとだめ。

小さい頃に人気のあったアイドルのデュオには悩んだね。

片方は顔が好きだけど声が嫌いで、
もう片方は声が好きで顔が嫌いだった。

相当悩んだよ。
俺はどちらを選べばいいんだって!
誰も俺に選んでくれなんて頼んでもいないのに。。。

ま、それくらいぼくは声フェチだってこと。

幸い、アニタ・ベイカーの場合は、声も顔も好きです。

金田広志

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  1. 2006/09/14(木) 22:11:31|
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Don't Disturb This Groove / The System

第11回−ポップス Don't Disturb This Groove / The System
朝起きた時と、ドライブする時に


Don't Disturb This Groove The System
Don't Disturb This Groove 〜 The System

80年代というのは、
シンセサイザー、サンプラー、ドラムマシーンなど、
新しい電子楽器が次々と世に出始めた頃で、
アナログとデジタルの融合なんていうのがテーマだった時代だ。

ドラムはむちゃくちゃタイトな機械的なビートなのに、
その上をヴォーカルのようなセクシーな「アナログ楽器」が泳ぐ。

それが気持ちよかった時代。

しかし、今聞くと当時の電子楽器のサウンドは
結構しょぼく聞こえたりするものが多いけど、
中には色あせないものもある。

何でもそうだけど、
すごいものはいつだってすごいのだ。

なってったって曲の根っこは構造。

決してアレンジメントではない。
アレンジメントは単なるお出かけのお洋服。

骨格と肉付きがよければ、
少々のぼろを着ても、
美しい体型が外から感じられるんだ。

このアルバムのスムーズなテクノファンクサウンドは、
しっかりと構築された電子楽器の
透明で澄んだ機械的世界があって、
その中を黒人のソウルフルでパワフルな声が
縦横無尽に泳ぐ。

それってやっぱり気持ちいい。

特に、タイトルカットのDon't Disturb This Grooveがイイ。

歌詞を聞くと、
「天国だ
この最高に気持ちいいノリを
邪魔すんなって書いたサインを
ドアに掛けよう
ぼくは君に夢中なんだ」
って歌ってる。

アリゾナ州ツーソン市から、
ラスベガスまで車で行ったことがあるんだけど、
その時このアルバムを聞きながらドライブしたんだ。

このアルバムはとっても都会的なサウンドのはずなんだけど、
何にもない砂漠の中を走るのにとっても合ってたんだよ不思議と。

ぼくの隣に座ってた女の子は、
クラシックピアニスト。
何でこういう古いテクノポップス聞くのとキョトンとしてたけど、
ぼくは天国にいた。

アルバムのジャケットを見ると、
ふたりがクラシックカーでさ、
楽しそうにドライブしてるわけ。
ドライブする時に聞いて欲しかったのかもしれない。

Don't Disturb This Grooveは、
朝起きた時と、ドライブする時に聞くのがお薦め。

金田広志

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  1. 2006/09/07(木) 02:06:10|
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