【裏】作曲の王道 ジャズ & ポップス・レビュー

こんな音楽知ってる?あの「作曲の王道」のプロデューサーとアーティストが、(独断と偏見に満ちた)良質な音楽情報を紹介!

ポール・デスモンド / フロム・ザ・ホット・アフタヌーン+6

第20回 ポール・デスモンド / フロム・ザ・ホット・アフタヌーン+6〜世界一遅く吹く、アルトサックス奏者。でもセクシーです。〜



夜中に、突如起き出して聞きたい音楽って、ないですか。

僕は先日、自分のライブが近づいて、そのアレンジもかなり残っているのに風邪をひいて、焦り80パーセントで酒を飲んで寝付いたにもかかわらず、夜中に突如起き出して、「こんなことでいいのか」と自分を叱咤激励し、明日はスクールで9レッスンあるし、その準備はいいかと頭が冴え出してどうしようもなくなって、やはりこういうときは自分の好きなCDでちょっとクールダウンしないとまずいなと取り出したのは、ポール・デスモンドの「フロム・ザ・ホット・アフタヌーン」でした。

何故、それかって?
大体ポール・デスモンドは好きなアーティストのベスト10の中に入っていて、彼のアルバムは全部持っているんだけれど、とにかく飽きないからです。

メロディがすごくセクシーなんですね。

昔、映画「テン」の中でとってもきれいだったボー・デレクがダドリー・ムーアに向かって「セックスするときはラベルのボレロって決めてるの」って台詞があって、僕だったらラベルよりもデスモンドだなって思ったことがありました。

それだけ彼が作り出すメロディはセクシーでうねるのです。
とはいってもデスモンドを聞いたことがない人には説明しておかなければならないんだけれど、デスモンドの吹くサックスというのは、たぶん世界で一番遅いサックスです。

アルト・サックスを持つと誰だって吹きたくなるのが、チャーリー・パーカーみたいな速射砲のようなフレーズで、パラパラ吹けたらどんなに素敵だろうと考えるのは、もはや生理です。
ところがデスモンドはめちゃゆっくり吹く。
吹きながら今月の収支決算でもしているんじゃないかって考えるほど、遅いです。

有名な「テイク・ファイブ」を聞いてみてください。
テーマの後にくる彼のアドリブは、誰が聴いたって口ずさめるくらい簡単です。ありゃ、これ、書き譜じゃないかなって思うくらですね。
でもそれが良い。

アルト奏者はパラパラ吹かなきゃいけないっていうパーカーの呪縛がデスモンドによって覆されたっていっても言いすぎじゃない。
実際、デスモンドは長い間、トッププレイヤーで、そのトップをキャノンボールがしばらく奪っていたのですが、ファンキーブームが過ぎると、再度トップに躍り出たのでした。アメリカ人はみんなデスモンドが好きなんですね。

早く吹かなきゃならないアルトを、必要以上にゆっくり吹くというのは、根性がいります。早く吹けないわけじゃないんだから、アート・ペッパーみたいにパラパラやればいいんだけれど、デスモンドのギアはローに入ったきり、動かない。

デスモンドのアルバムを僕が深夜、妻に内緒でこっそり聴きたくなるのは、それが理由です。
そんなに急いでどうするの、っていう感じが、デスモンドのサックスにはある。

パーカーのこれみよがしの速射砲のような種付け馬サックスじゃないくて、もう50になるんだけどさ、それなりにセクシーに生きようよね、という気分といえばわかってもらえるでしょうか。

「人生、味だからさ」と僕の敬愛する国吉清治さんが、酒場でへろへろになりながら僕に言った言葉が忘れられません。

「急いだってさ、疲れるだけだもん」

彼はそういって自慢の金製のフルートを持ち出してwhat are you doing the rest of your lifeを吹いてくれたことを思い出します。
走って走って走りぬいて、最後に残ったものが熟年離婚じゃつまらないでしょう。かといって、子供の大学卒業証書見ながら酒飲んでも、本当にいいのかなって思ってしまうのは僕だけじゃないでしょう。

デスモンドの「フロム・ザ・ホット・アフタヌーン」の1曲目、「オクトーバー」を聞いてください。
そこにあるのは、単なる癒しの音楽じゃないです。
ゆったりと吹きながら、奥にセクシーが漂っている。
ギアはローなんだけど、何かエロいんです。
音楽にデザインがあるといってもいいでしょう。
直感だけじゃなくて、こう吹きたいという雛形がある。

デスモンドはずっとスタープレイヤーでしたが、どの写真を見ても、めがねかけて、オッサン然としていて、髪は半分ハゲていて、でもどこかオシャレな人でした。

彼のオードリ・ヘップバーン好きはつとに有名でした。

たぶん、妄想が現実を凌駕してしまったような人生だったのでしょう。生涯独身でした。

とても気難しくて、誰よりも遅く吹く奏法でスターになって、でもオードリ好き、みたいなわかりにくい人だったのです。
ま、一言でいって、変わり者だったのでしょう。
彼とうまくやれたのが長年コンビを組んできたデイブ・ブルーベックとか、MJQのジョン・ルイスとか、アレンジャー系のミュージシャンに多かったというのは、彼がデザインされたものを好んでいたという証しのように思えます。

デスモンドの最後はガンでした。NYのアパートで静かになくなりました。何かさっぱりしてますね。それこそ彼が望んでいたデザインされた死に方だったのかもしれません。

羽島亨

P.S.
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P.P.S.
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  1. 2006/12/26(火) 08:19:05|
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