車を買い換えた。
新しい車になったのだから、新しい気分でCDを聴こうと、普段あまり聞いていない手元に置いてなかったCDを6枚選んだ。
たまの休日、墓参りに出かけたときにそれをはじめて聞くことになったのだ。
いきなりインディアナ。
テナーの軽快なソロからはじまるこの曲の主は、間違いなくスタン・ゲッツだろう。
ゲッツは今日もごきげんなソロを取っていて、フレーズによどみなし。
それに続くピアノのソロ。なるほど、何ともノスタルジックなメロディで、よきスイング時代を感じる。
私にはこのピアノが誰かわからなかった。大体車にどのCDを積んだのか、自分でも覚えていない。
このピアノ、誰だっけ? ゲッツならジミー・ロウルズかルー・レヴィかピーターソンか。その誰でもないなあと思いつつ、2曲目のwithout a songへ。
ちょっとアメリカの売春宿で聞くようなピアノの感じがあるなあ。行ったことないけど。
うーん、このピアノ、良い。
ピーターソンではない。このピアノ、あそこまで上手くないもの。ピーターソンはずっと昔、サンケイホールで88鍵の上を手が自由に動き回っているのを見て、人間技じゃないと感心した覚えがある。
ルー・レヴィでもない。レヴィは確かに名手だけれど、もっとモダンだし。ロウルズは一聴してロウルズだけれど、それとも違う。
ちなみに、ロウルズって、本当にいいか?
私が知っているロウルズは全部ゲッツとのコラボ盤なんだけれど、指だってそれほど動かないし、フレーズも切れ切れ。ちょっろって出てきてはちょろって良さそうなことを弾くんだけれど、わざわざコピーして自分で弾いてみたくなるようなフレーズではない。
例えばエバンスとかピーターソンだったら、絶対格好良いフレーズというのがあって、たった3小節コピーするのに1週間かかろうとも、自分で弾いてみたいと思うことがあんだけれど、ロウルズにはそれがない。
誰かロウルズファンの方がいたら、どれを聴けばよいか教えてください。
話を戻します。このピアニスト、テディ・ウイルソンとかアート・テイタムとか、そんなスウィングの匂いがぷんぷんする人、誰でしょう。
で、私はどうして車を止めるのよと目を三角にする妻を尻目に高速道路の路肩に車をつけ、オートチェンジャーを開け、一体誰のピアノだろうと中を見て驚いた。
ベンクト・ハルベルイ。全然知らない人。
大体ゲッツinストックホルムなど、ちゃんと聞いていなかったかもしれない。ボブ・ブルックマイヤーとやった奴とかピーターソンとやった奴とか「ディア・オールド・ストックホルム」が入っている盤とかの影に隠れてちゃんと聴いていなかった。ただ、こうして聴くと、スエーデンのバンドのもっているちょっとレイドバックしたスイングな感じでとってもgoodでお気に入り。
アメリカの中で活躍するピアニストは、時代の流れの中でお勉強しながら活動を続けるというのが実情で、スイングからバップ、クール、ホット、なんてその時々の流れを汲みながら自分の音楽を表現しなければならないんですね。自分がスイング大好きでも、流れがフリーならフリーのイディオムも使うというのが現状でしょう。
in ストックホルムがレコーディングされた1955年には、アメリカではほとんどのミュージシャンが演奏しなくなったスイングスタイルを、アメリカから遠く離れたストックホルムというヨーロッパの偏狭の地で、スイング命、みたいバンドがあって、それとの共演を楽しんでいるゲッツがいたということでしょうか。
ゲッツのアルバムで私が好きなのは、肩に力がはいっていないということ。
もちろん肩に力の入った作品もいくつかあるけれど、レコードがそこそこ売れたためにどんどんverveは制作したのでしょう。問題作、衝撃作的なオドシの音楽が多いレコード業界の中で、ゲッツのアルバムだけは肩の力が抜けている。これはすごいことですね。
発売点数がすくないアーティストは「僕、こんなにいろんな人、知ってるんだもん」という感じになって、ゲストに金かけて一体誰が主役なのかわからないアルバムとまったく逆の制作意図です。
ストックホルムのゲッツだと確認した私は、ちょっとゆったりした気分で「もうあなたは本当に!」と半分呆れ顔の妻の待つ運転席に戻り、車を走らせます。
その日はちょっと霧雨が降ったりやんだりで墓参り日よりではなかったのですが、ベンクト・ハルベルイに乾杯。
時代錯誤野郎。
ヨーロッパのスイング親父。でも僕、スイングピアノ大好きだもーん・・・なんて声が聞こえる。
流行と関係なくスイングしているあなたの姿、何か、イナセでした。
羽島 亨
P.S.
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P.P.S.
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