【裏】作曲の王道 ジャズ & ポップス・レビュー

こんな音楽知ってる?あの「作曲の王道」のプロデューサーとアーティストが、(独断と偏見に満ちた)良質な音楽情報を紹介!

カウント・ベイシー / カンザス・シティ・セヴン

第21回 カウント・ベイシー / カンザス・シティ・セヴン
スイングは強力。でも「省エネ」なジャズピアニスト。〜




新年明けてから最初に何を聴くかと思ってCD棚をガサゴソをひっかきまわす。
最初は寝ている妻を起こさぬようにとちょっと遠慮しながらだったけれど、エバンスもいいけれどピーターソンもなぁとか、ゲッツも渋いけどスティットだっていいからなぁとか、あぁだのこうだの考えると、2007年を明けるためのCD選びは難航しました。

約15分ほど考えて、結論。
ベイシーとカンザスシティ7にしよう。

「カンサスシティ」じゃなくて「カンザスシティ」です。
ジャズの殿堂カンザスシティという発音は、昔々笈田 敏夫さんがライブでしていた発音そのまま。何かヤバくてジャズな感じがする発音ですね。

どうしてこのアルバムに決めたのかというと、いろいろ理由があります。
まずは、ベイシーの中でもビッグバンドではなくて、リトルコンボ作品であること。パーソネルがサド・ジョーンズにフランク・ウエスにフォスターにフレディ・グリーンにエド・ジョーンズにソニ・ペインと錚々たるダル顔ぶれであること。アレンジがご機嫌で、特にウエスとフォスターのフルートが新鮮に響くこと。その上、ベイシーのピアノがご機嫌であるからです。

とにかく聴いたことがない人は一聴してみてください。
ビッグバンドのベイシーとは一線を隔した魅力があるアルバムです。ジャムセッション風なんだけど、アレンジされていて。ベイシーの愛奏歌が多く納められているんだけれど、当日ベイシーの脳裏に浮かんだメロディをアドリブ風に演奏していたりもしていて。
自由と計画。ふたつの要素があって、ジャズという芸術が生んだ宝石のひとつです。

わたしはベイシーのピアノに内心、憧れがあります。
どうして?
答えは明快、省エネだからです。
省エネだけどやけにスイングする。

ピアニストといえばオスカー・ピーターソンです。
ビル・エバンスです。
キース・ジャレットです。
その方々はもちろん最高に上手いピアノです。
ホロビッツとかグールド級に上手いです。
ジャズのピアニストが下手でクラシックのピアニストが上手いなんて思っているのは相当頭が古いです。
今挙げた人達はどれをとってもF1級のピアノの上手さを誇ってます。
k-1級といってもいい。
とにかく毎日よっぽど練習していないと、形にならないテクニックを要求されているということです。
じゃ、ベイシーはと尋ねられると、黙ってしまいます。
じゃ、どうなのよと質問されると、でもいいんだよねと答えるのはわたしだけでしょうか。

本人はプレイボーイ誌のインタビューで下手さをカバーするために編み出した奏法だと話していました。自分でもあんまりピアノが上手くないことは承知なのでしょう。
後々パブロ盤ではピーターソンと一緒にやったりしていますが、そういうときのベイシーはいつも以上に寡黙になってます。気の毒なくらい。

でもですね、ビッグバンドを演奏しているときのベイシーの小エネピアノは、音数がすくないんだけれど物凄くバンドをスイングさせるエネルギーに満ちていて、気がついたらベイシーのアドリブフレーズを口ずさんでいる自分を発見したりするわけです。

つまり、聴く人に勇気をくれるわけです。

じゃ、ベイシーの何がわたしをそんなにひきつけるのか。
ベイシーのピアノには、いい気なもんだよなあって感じがいつもあるのです。
そんな気楽にピアノ弾いて、いい気なもんだよ、ベイシーさんって感じ。

ベイシーのオーケストラは大抵がピアノトリオからはじまっていきなりガーンと全部のホーンセクションが鳴るみたいな編曲が多いのです。ベイシーのソロ部分はいい気なもんで、突然全員がはいると途端に熱血になってゆく。
人生、がんばろうって感じでしょうか。

で、サド・ジョーンズとか超絶技巧の抜群のソロしたあと、フランク・ウエスとかがピョロピョロいい感じのソロをした後、再度登場するわけです。
おまえら、何やってんだよ。人生なんか、そー思った通りになんかいかないんだから、がんばるなよ。楽しめ。ってなもんです。

フレーズとフレーズの間に30秒くらい明けるのなんか平気ですからね、ベイシーは。
これがバド・パウエルだったら32分音符を1000個くらい詰め込めるスペースを、まったくのゼロにしてしまうということなんか、平気なんです。危険だよなあ。危険な親父。

楽器やった人ならわかるはずなんだけど、ベースがズンときてドラムがチーチャカいってスイングがはじまったら、普通の神経の人ならガンガン弾きたくなります。出来ればピーターソンみたいに華麗に。もしくはエバンスみたいに耽美に。キースみたいに唸っちゃったりして。

それが人情ってもんです。
で、一緒にプレイしているバンドメンバーに、「やるじゃん、おまえ」とか言われたり、ちょっと気になる女の子に、「羽島さんって、意外とピアノマンだったりして」とか言われて、「そうでもないけどさあ」ってな感じをどうしても狙ってしまいたくなるもんです。凡人としては。

でもベイシーはそんなものを一切狙っていませんでした。

彼が狙ったのは、下手は下手なりの存在感。
バンドリーダーとしての位置づけによる、美味しい登場。
みんながスイングしているのにひとりだけ涼しい顔の旦那芸だったんですね。

懐かしい友達といっしょに酒を飲むとき、「おまえ、何飲む?」
「何でもいいよ。お前なに?」
「どうしようね。焼酎?」
「いいねえ」
何て場面、居酒屋で死ぬほど見た風景だし、日本人なら絶対してしまう全体主義というか、調整主義。自分だけ飛び出すことを恐れるわけです。
わたしはそんな場では他人のことなど一切気にしないで「僕はワイン」という人が好き。
飲むときくらい好きにさせろよ、バカヤロウってな感じでしょう。
飲むときくらい好きにしても、誰も怒りゃしないって。
でもそんなときでも調整してしまうわたしがいます。
いまいましい。
自分の中にサラリーマンをやめて8年になるのに、みんなの思惑の中で目立たないように生きようという自分がいるのが嫌です。嫌われたくないのです。日本人ですね。

だから、2007年の初頭に、わたしはベイシーを聴くのです。
妻に、「起こしちゃってごめん、ちょっとさ、CD探してたもんで」なんて弁解がましい態度をとらない自分を見つけるために。

羽島 亨

P.S.
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P.P.S.
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  1. 2007/01/12(金) 10:00:00|
  2. ジャズ
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  4. | コメント:1

コメント

TBありがとうございました。
「省エネ」の表現には、参りました。私もベイシー、好きですが、確かにイメージとしては「バン、バン」「パッ」という感じですね。しかしエネルギッシュ。ベイシー=ビッグバンドオーケストラという風に思ってしまいますが、拝読しているうちにコンボを聴きなおしてみようかな、という気持ちになってきました。
爆発した「アトミック・ベイシー」も嫌いじゃありませんが。
また、訪問いたします。宜しくお願いします。
  1. 2007/01/13(土) 19:00:57 |
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