2007年に買ったアルバムの中でベスト1を決める選考会議が2007年12月31日に世田谷の経堂で催され、結局ナンバー1に選出されたのは、マヌ・カッチェの「PLAYGROUND」でした。
なーんて書くと大儀だけれど、わたし個人としてはその年のナンバー1CDは決めておかなければいけないので、毎年年の暮れになるとひとりCDを書斎に持ち込んで大音量で聴いてどれを一番にするか選出するというのが、一年のしめくくりになっています。
ところが今年はまったく悩むことなくマヌ・カッチェに決定。
というより、こんなに自分の気分にぴったりのアルバム、ちょっとないです。
だいたいマッチェを知ったのはスティングのプロジェクトでタイコを叩いているということと、同時くらいにECMでサックスのヤン・ガルバレクのアルバムで叩いているのを聴いて、なーんか気になったのですね。
スティングのときはマルサリスのお兄ちゃんとかピアノのケニー・カークランド、ドラムはオマー・ハキムとかが目立っていて、その影に隠れているという感じがしたけれど、ガルバレクのときはものすごく良かった。
このときのピアノのライナー・ブリューニングハウスがまた抜群だったのだけれど、ECMからCD出してるんでしょうか。一時探したときはなかったので残念です。きっとプロデューサーのマンフレッド・アイヒャーと合わなかったのでしょう。彼の近況なりをご存知の方がいたら教えてください。また、聴いたことがないようでしたら、一聴を勧めます。フレーズがジャズイディオムに捕われていないのが素晴らしいし、とにかくビューティフルです。
話が横にずれました。
カッチェです。
このアルバム、針を落とした1曲目がスゴイ。
Loというタイトルです。最初に聞こえるのはサックスとトランペットのユニゾンでしょう。静謐とはこのこと、というくらい静かなバラードで、心が洗われます。ピアノがいい感じで絡むと思ったら、Marcin Wasilewskiでした。シンプルアコースティックトリオのピアノですね。ガッツから出ていたものを二枚買ったのですが、そのときよりタッチが強くなっているように感じました。
カッチェのアルバムは曲がよい。どう良いかというと、おざなりに枯葉とかall of meとかMistyとか、体系が出来てしまった音楽ではなくて、これから体系を作るようなメロディです。
耳でこれがヴァース、ここがビルト、ここがコーラス、と追ってゆくと、簡単に割り切れてしまうのに、単純なメロディの繰り返しが耳について離れない。結局メロディが秀逸なのです。
2曲目のPieces Of Emotionのピアノのリフを聴いて、感じることがありました。このリフ、ピアノじゃなくて大音量のギターでやったら、ハードロックのリフじゃないか。
カッチェの魅力はその引き出しがジャズだけではなくてロックとかR&Bとかワールドミュージックとかさまざまなところにあって、一概に割り切れない。カッチェのあとにキースのトリオのジャック・ディジョネットを聴くと、ああ、ジャズだよなあと思います。それだけドラムのたたづまいがジャズとは離れていてロックとかR&Bのテイストが強いのです。
三曲目のSong For Herのシンシンするシンバルワーク、どうですか。彼女に対する思いがストレートに伝わってくるじゃありませんか。
4曲目になってやっとリズミカルなSo Groovy。
これはスティングに参加していたころにイメージです。スケールの大きなドラムですが、ザ・バンドとかアメリカンロックのスケールの大きさではなくて、めちゃめちゃ細かい手数ありつつの、音像の広いドラムです。
この人のタイム感覚は抜群で、ビートの中でゆったりと乗っている感じがして、早い曲でも心が落ち着きます。
このアルバム自体ヨーロッパ陣営のジャズであって、アメリカの人は一人も入っていないことに気がつきました。あくまでもヨーロッパのジャズ。フレーズにバド・パウエルとか出てきません。チャーリー・パーカーとか匂いもありません。ふっと頭をよぎるのは冬のモンマルトルあたりの滲んだ風景。パリのシャンゼリゼを疾走する恋人たちの姿。どこか映像がついてまわります。
ジャズだからアメリカとかそういうのではなくて、ヨーロッパ人がジャズをやるとこうなんだよ、なんていってそうなカッチェのアルバムを聴いて、ジャズという枠にまったく捕われていないミュージシャンの姿を見つけました。
自由なんです。
最近わたしは、それらしく振舞うということを考えなくなりました。
50過ぎたんだから、こうしなくちゃ、とか。
年なんだからこうしてはいけない、とか。
自分に自分を規制を加えて、何とか世間体を整えようとあせっていたのかもしれません。
仕事的には遅い独立だったので、なめられないようにしなきゃね、とか、思っていたのかもしれません。
でも、そんなことはばかばかしい。自分らしく生きよう。ジャンルになんか、とらわれる必要なし。そう考えはじめてきたところなので、カッチェのアルバムは効きました。
「おまえ、自由にやろうぜ。自分に自分で限界を作るなよ、なあ、兄弟」ってなもんです。
で、インナーに入っていたカッチェの写真をみると、なるほどアフリカ人とフランスの混血とか書いてあったけれど、そういった風貌です。自由でエロくて、それでいてトレーニングされている。いつの間にか新しい価値観のミュージシャンが世の中で成功をはじめているんだなと思いました。
羽島 亨
P.S.
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