第33回 ゲッツ/アルメイダ スタン・ゲッツ&ローリンド・アルメイダ 〜男前を音にすると、これになる。〜イパネマで大儲けしたクリード・テイラーが調子に乗って放った一枚。
私はこれを車のCDラックに入れていつも聞いています。
ラックには全部で6枚入っていて、どれもその時の気分を現した作品ばかり。
気分が変わるとCDも変わり、いつも同じものが6枚ではないですが、
最近のお気に入りはこのwithアルメイダです。
車を走らせて青山辺りに差し掛かる頃にこれがかかると、
ちょっと映画でも観ているような気分になるからです。
どんな映画って、フランス物のゴダールですかね。
ジャン・ポール・ベルモンドとか、
男前が出てきて颯爽とモンマルトル辺りを
駆け抜けるような映画を思い浮かばせます。
出てくる女の子は絶世の美女っていうのではなくて、
小悪魔可愛いのジーン・セバーグってところですかね。
どうも私はフランス映画に目がなくって、
自分がちょっとしたジゴロだったり、ギャングだったり、
チンピラだったり、そうした気分にひたりながら
街を車で流すのが好きなわけです。
みなさんはそんなこと、ないですか?
一時、煙草をジタンに変えて街を流していたこともあるんですけれど、
ちょっと味が合わなくてすぐラークに切り替えました。
ま、自分があまり道を踏み外さない人生を歩んできているので、
不良に憧れるんでしょうね。
ゲッツのボサノバはいいです。
音楽の男前っていうのはこれだという決定版でしょう。
私はゲッツのアルバムを聞いて、
いつも男前のゲッツがサックスを抱えているところを想像するのですが、
いつもジャケットを見ると、意外と太めでそれほど男前でないのでがっかりするわけです。
マイルスっていうのは音も男前ならルックスも男前っていう珍しい人で、
だからあれだけになったんだと思いますが、ゲッツは音楽のほうが男前かな。
だいたい男は男前に生まれて、女の子を泣かして、
気楽に街を流すなんて不良願望があるんではないでしょうか。
恋とワインとちょっと背徳的な楽しみ。
アルメイダのギターも男前です。チャチャチャーチャと
低弦を含んだコードがリズミカルに鳴り響くと、もうブラジルなわけです。
ちなみに、ジルベルトのギターはもっと複雑に感じます。
単に男前っていうよりも、もっと複雑な響きがします。
アルメイダの方が明快なサウンドをもっているのでしょうね。
3曲目の「WINTER MOON」のイントロを聴いてください。
男前度が高いです。このギターのイントロに
誘われるように出てくるゲッツのトーンも男前。
いやあ、男は男前に生まれたいものです。
ゲッツはあまりにボサノバで売れてしまったので、
後年、ボサノバをリクエストする客がいると、
「またボサノバかい」といって相手にしなかったと誰かが書いてあるのを見ました。
ヒット曲を持つ歌手がいつも自分のヒット曲を
歌わなければならないのが芸能の性ですが、
ゲッツも結局は後年、自分についたボサノバというイメージを
歓迎しなかったところがあるのでしょう。
でも「ボサノバとバラード」なんていうアルバムを
ハーブ・アルパート・プロデュースで発売してるなんてところなんて、
ちゃっかりしていると思いませんか。
音楽はこの時期からどんどん進化していって、
めちゃなさけない音楽とか、本音むき出しの音楽とか、
男前の音楽だけではないものもどんどん増えていきました。
でもゲッツは何といっても男前。パフーとサックスに息を吹き込む潔さが、
彼のかっこよさの源流ではないでしょうか。
この後、アストラッドとのライブ盤とか、ビッグバンドとの競演版とか、
ゲッツはいくつものボサノバ関連を録音していますが、
ボサノバというリズムとゲッツの哀愁感は相性が良いようで、どれも最高です。
羽島 亨
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- 2008/08/21(木) 13:28:07|
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第32回 トニー・ベネット/THE ART OF EXCELLENCE 〜恋のときめきを歌う60男がいる。〜 恋のときめきを歌う60男がいる。
もうずいぶん前の話だけれど、私がある歌舞伎俳優と仕事をしたときに、彼のリムジンに乗って品川の彼の自宅まで移動したことがありました。
その時に社内に流れていたのがこのアルバム。
リムジンの後部座席に持たれて世間話をしようとしたとき、突如トニーの「WHO DO PEOPLE FALL IN LOVE」がかかって会話を止めたのです。
「これって誰のアルバムですかね」
「トニー・ベネット」
歌舞伎役者は華やかな笑顔でそういって、「最高でしょ?」と付け加えました。
リムジンはキラー通りに差し掛かるところで、綺麗な夕方の街の景色とトニーのすこしかすれた歌声とマッチして、「トニーっていったいいくつなんだろう」と思ったものです。
わたしの知っていたトニー・ベネットという歌手は、フランク・シナトラの影に隠れていた存在で、イタリア系ジャズボーカリストで、ポップスにヒットがあって、すこししゃがれた声が魅力という以外、何も知りませんでした。
ジャズといえばもっとハードにスイングするボーカリストのほうが好みだったし、バラードならまたバラードでいい歌手は他にいると思っていたのですが、このアルバムを知って彼と向き合ってびっくり。これがいいんですね。
調べてみると、録音当時はすでに60歳でした。発売が86年で彼が26年生まれなので。
60歳?
色気があって、でも説得力があって、いい感じです。
ライナーノーツには、14年離れていたCBSに戻っての最初のレコーディングとあります。14年離れていたレコード会社と再度契約するというのは、奇跡です。ナンたってレコード会社は流行の産物、新しいことが大切な産業なので、60男と再契約を結ぶっていうのは、奇跡以外何者でもありません。
だからそれ自体、トニーの勝利なのです。
ああ、男として生まれたからにには、こんな風になりたいなと思ったものです。
私はそこまでの年齢ではないですが、友人に60間近の人間も多くいるので、会話はどうしたって一仕事終えた感が強くなります。一緒に酒を飲むと一番ループする単語が「定年」となります。
ああ、男って、定年がある意味人生の節目で、その前に「定年意識しだす年齢」と「定年なんて関係ねえ」という区分があって、多かれ少なかれ「定年」が人生の大きな区切りになるのでしょう。
トニーは違います。
ジャケットを見てください。「これからだ」という感じの顔をしています。
人間って何となく人生のピークを早いところに設定していると思いませんか。自分でピークを早く設定すると、そのピークまでは頑張れるんだけれど、その先ががたがたになってしまう。定年後の男達がそんな感じで、それまで会社という礎があったのがその土台を失って方向性をなくし、どうやって生きたらいいかわからなくなってしまう。
ひとつひとつ階段を上がってきた。そしてひとつひとつを自分のモノとして確実にしてきたって感じがします。
それがこのアルバムの1曲目、「WHO DO PEOPLE FALL IN LOVE」に表れている。
これはラブソングです。恋に落ちたときが最高、って歌です。恋のときめきを歌う60男がいる。「60歳で恋かよ」なんて言葉が聞こえてきそうです。60だって恋が出来るぜ、といわれているような感じがします。なるほど、リミッターをかけているのは自分自身であるってことですね。
60歳でパワフルってことのコツは、自分にリミッターをかけないってことじゃないでしょうか。そんなことが学べる、素敵なアルバムです。
羽島 亨
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- 2008/07/10(木) 12:56:37|
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第31回 Mario Biondi(マリオ・ビオンディ)/I love more LIVE 〜男なら余裕かましていいですか。〜
I Love You More Live
わたしの友人に、U君というのがいます。多分わたしの友人の中で一番事業に成功した人物でしょう。
彼がわたしのスクールに顔を出したとき、一体どこで売っているのだろうと思われる柔らかそうなカシミアのスーツを着て、何やらミアゲを差し出しました。
「これ、みなさんで」
西麻布で有名な銘菓。
彼が高校時代と一番変わったのは、ゆっくるしゃべるところでしょう。
なるほど、金持ちになると人はゆっくり喋るようになるのかと思ったものです。
それがやけに堂に入っていて、大物感をかもしだすのです。
「僕は、君たちと違うのよね」的な。「急がなくても、時間あるからね」みたいな。
なるほど、男は慌てない、的なイメージですね。大所帯の会社を束ねていると、そんな感じになるのでしょう。1秒でも無駄にしないために早口で話すわたしとは、大違いであります。
イタリアの伊達男、マリオ・ビオンディのアルバムを聞いて最初に思い浮かべたのは、U君のことでした。
最近あまり聞くことが出来なくなった低音の魅力と、余裕たっぷりな歌いっぷりが、U君のイメージとぴったり重なったのです。
「わたし、こういう歌嫌い。余裕ある歌手って、何?」
妻の言い草です。
男としては、余裕ある男の色気を感じてほしいものですが、妻はあくまでも男女同権、男と女が同じ位置にいるという立場をとっているので、余裕が嘘臭くて嫌だそうです。
そういえば、50年代とか60年代、フランク・シナトラは、生涯困惑した顔するのだろうかってほど、余裕かましていましたね。男としては、あんな風に将来なりたいものだと思ってがんばったものです。
ところが80年代になると、等身大で生きようよ的なムーブメントが広がって、男女同権的な運動も加わって、余裕綽々な男像っていうのがどこかに消え去ったものでした。
消滅した感じだった余裕男像ですが、ひさしぶりに復活させたのがU君でした。そんな友人を見てわたしは、半分羨ましかったり、半分はおいおいって感じになったのが本音でしょうか。そこには確実に演技が入っているはずなので、でも演技入れられるのは余裕なわけですから、微妙な気分です。
マリオはバカラックの「close to you」さえも余裕かまして歌います。
「リオデジャネイロ・ブルー」なんか最高です。
バックは4リズムなんてちゃちなこと言いません。
ブラスにストリングスです。
豪華です。
そういえば、最近のわたしが見たライブ、ほとんど4リズムですね。ブラスが入ると「豪華!」って感じがします。ストリングスの入ったライブ、この十年、見たことないかな。
その豪華なバンドを従えて余裕たっぷりに歌うもんだから、U君に感じた違和感と、ちょっとした憧れも感じました。
マリオ・ビオンディを聞くなら、歌声だけでなく豪華なバックも楽しんでください。背景にある男の余裕を感じてみてください。そこに憧れるか嘘くさく感じるかは、あなた次第。
ただ、そこらの歌手を聞くより、面白いですよ。
わたしは是非、来日したら聞きにいきたいと思ってます。
羽島 亨
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- 2008/06/03(火) 13:28:04|
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第30回 Steve Czarnecki Trio/when I dream of you 〜助手席の恋人にキスしたくなるピアノトリオ〜 
タワーで何か良いピアノトリオがないかと探していると、オススメのコーナーにこれがありました。ジャケットがイカしています。エリオット・アーウィットの湖畔のドライブをしている若い恋人同士がキスをしているシーンがバックミラーに映っている、有名な写真。
いいですね。ロマンチックです。
湖畔、ドライブ、夕焼け、キス。
女の子はちょっとした美人です。
危なくないんでしょうかね、キスしながら車を走らせて。
危なくないわけ、ないですよね。
日本の法律にはドライブ中にキスしちゃだめっていうような項目はありません。でもシートベルト着用を守ったら、助手席の恋人とキスはできません。シートベルト着用は隣にどんなに素敵な恋人がいても、どんなに夕日が綺麗でロマンチックな場面に出くわしても、キスを禁止しているのと同じなのです。
そういえばこの間、運転免許の書き換えに鮫洲に行ったら、将来、後部座席に乗っている人もシートベルトをしなきゃいけなくなるということ。
ということは、車の中ではみんな座席にへばりついてないと罰金を取られるような仕組みになってしまうわけですね。
だからアーウィットの写真は古き良き時代の名残のような写真になるわけです。
「お父さんの時代は、ドライブ中に助手席の恋人とキスできたんだぞ。」
「へー、危なくないの?」って、子供は答えます。
「恋はちょっと危ないのがいいんだよ。」
なんてね。
実はこのアルバム全体がそんな感じです。
華やかなピアノトリオです。
のっけから高いキーでメロディが始まります。
指が良く動いて、良くスイングするピアニストです。
今回彼の名前を聞くのは初でした。
ベースだってがっしりして、タイコはハイハットがきっちり2,4を刻んでくれます。
ということは、良くスイングするトリオだってこと。
選曲も良いです。
「Body & Soul」とか「Who can I turn to」とか「When I Dream Of You」とか、夢見るようなメロディが次から次へと出てきます。
オープニングの曲は「J.smith」ってなっているけれど、きっとジミー・スミスでしょう。グルービーなブルースです。部屋で流していたら、ピート・ジョリーとかルー・レヴィとかかなと思うくらい高い音のソロが気持ち良くて気に入りました。
最近のブラッド・メルドーとかにはない陽気さで、多分流行からすると古いタイプで、一切、影のないピアノですが、その分、ロマンチックであります。そういえばオスカー・ピーターソンとかジョー・ブッシュキンとか、スイング派のピアニストはロマンチックで影なんか一切なかったのに、最近はああいったピアノがいないなあと思っていた矢先なので、嬉しい盤でした。
きっとこんな人が青山のbody & soulでやってくれたら、毎晩楽しいのになあと思うようなテクニックです。メルドーとか、やけに音楽していて、隣の女の子を口説くような気になりません。
エンターテイメントと純文学ってあるなあと思うわけです。
お楽しみの音楽とやけに音楽する音楽。
どちらが好きかは別の話として、もっともらしく音楽ばかりになったら不味いなあ。危なくてふしだらで楽しい面も持っていくなくちゃ。
きっとこの盤は、若い恋人がドライブ中にキスができなくなったように、時代遅れのサウンドなのでしょう。
でも、こういうのがいいんです。
車の中で鳴らしてみると、どうして隣の恋人にキスしちゃいけないんだって思うようになりますよ。
羽島 亨
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- 2008/05/07(水) 13:43:23|
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